私が京都の武道専門学校の夏期講習で剣道を修めたのも師父の奨めであった。この剣道修行は、私の空手道修行に新たな眼を開かせてくれ、掛かり稽古をはじめとした剣道の修練方法は、後の私の空手道指導法に大いに役立った。
師父の私への指導は、「予備運動」をまず徹底してやることだった。私はこの予備運動を「剛柔体操」と名づけ、
弟子たちの修練の最初に必ず行わせている。師父はまた、サンチン立ち、四股立ち、猫足立ち、前屈立ちなど立ち方をしっかり定義付け、非常にやかましく指導した。形の修練では、形の中にそれぞれ、立ち方、手の使い方、蹴り足の使い方、演武の方向などの様々な特徴があり、それらがどういう意味をもっているか、よくよく考えて修練するように言われた。
剛柔流空手道の形においては接近戦における妙技が至るところにある。これらはことばでもって十分に説明できるものではない。どう理解するかは修練者の武才というものもあるだろうが、やはり空手道の修練には良き師を得てはじめて真の空手道を会得するものであると思う。
私は師父宮城長順の死去により、空手道剛柔流宗家を受け継ぎ、空手道剛柔流宗家講明館を開設、講明館館長として東京において空手道の指導にあたってきた。私の指導法は、開祖宮城長順の指導法と指導精神を基礎に、戦後、私が考案した指導法の実際を取り入れて行っている。